第44章

高橋遥は稲垣栄作に抱きしめられていた。

彼がまたこんな風に親しげに話しかけてくるのが、どうしても慣れない。彼女は少し顔をそらして言った。「はい、萩原弁護士が帰ったところです」

彼女は片付けを続けようとしたが、稲垣栄作が彼女を離さない。

彼は彼女の細い腰を抱き、ゆっくりと丁寧に彼女の体を撫でていた。だが、それは欲望というよりも、ただ時間つぶしのようだった。

高橋遥は彼と数年間夫婦として過ごし、彼の性格をよく知っていた。

彼女は抵抗せず、彼の触れるままにしていた。

しばらくして、稲垣栄作はようやく手を止めた。「どんな話をしていたんだ?」

高橋遥は淡々とした声で答えた。「株式と裁判の...

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